前回の『No Side』という言葉に続き、ラグビーと言えば、やっぱりこの言葉『One for all,all for one.』です。今回はこの言葉について説明したいと思います。この言葉の語源は諸説あり、もともとはラグビーから出た言葉ではないようです。ただ、その意味の解釈において、ラグビーというスポーツにみごとに当てはまったことから、ラグビーを通して、世間に広まりました。意味については、人それぞれの解釈の仕方があるので、微妙に違う部分もありますが、最初は、「一人はみんなのために、みんなは一人のために。」という意味で大いに、みんなから受け入れられました。
そもそもラグビーというスポーツは、あらゆる団体競技の中で、1チームの人数が最も多く、一人一人がチームのために、本当に危険な思い、痛い思いを共有しなければ、勝利という目標にはたどり着けません。だからこそ、仲間との太い絆(信頼関係)が必要になります。また、チームの中には背の高い人もいれば、低い人も、体の大きい人もいれば、小さい人もいます。小さくても、かけ足が速いとか、太っていて足は遅くても、体が強いとか、お互いの弱点と、強み、得意、不得意を認め合い、弱点や弱みをおぎない、支えあいながら、勝利に結びつけていきます。(だからこそ、ラグビーは誰でもできるスポーツです。他のスポーツほど卓越した運動神経はいりません。みんなで弱点は補い合いますから…)その意味で、この言葉は、ラグビーチームを鼓舞するうえで、最もぴったりはまる言葉でした。そして、この言葉は、子供たちが、学校で人間関係を形成していく中でも、たいへん適切な言葉として、受け入れられ、広まりました。社会にも様々な人がいます。そういう人の弱さと強さを認め合い、支え、励まし、磨きあわなければ、社会は成熟し、人間の成長はありません。ラグビーというスポーツが教育的価値が高いのはまさに、そういう点があるからと言えます。
ただ、ラグビーで使われた時の元の意味は少し違ったようです。あの不世出の名選手であり、元ラグビー日本代表監督、2016年に若くして、皆から惜しまれつつなくなった平尾誠二氏はこう言っています。「オール・フォー・ワン」の「ワン」とは「一人」という意味ではなく「勝利」を意味する“ Victory ”であると。つまりは「一人はみんなのために、みんなは勝利のために」が正しいと言っています。一人ひとりが『勝利』に正対し、仲間頼みではなく、自分の足で立ち向かうこと。チームの一員として他のメンバーに甘えたり、寄りかかったりせず、大人として自立できる集団であることが必要なのだということです。
全員で勝利をつかむためには、一人ひとりが全力で役割を果たせ!」というのがもう一つの解釈です。
この最後の「ワン」の訳である『勝利』という言葉は、会社や学校では、『一つの目的、あるいは目標』と置き換えても意味が通じます。『一つの目的、つまりゴール(目標)』のために全員が役割をしっかり果たすのが重要だ、という訳し方もラグビー精神に則った訳になると思います。単純な
「助け合い、助けられ合い」ではなく、「自立した人間としてチーム・仲間を認め、支え、磨き合い、勝利を目指す」ということも、この言葉の重要な意味になります。
つまり、One for all,all for one.という言葉の意味は、「一人はみんなのために、みんなはひとりのために。」でも、「一人はみんなのために、みんなは勝利のために。」でも、「一人はみんなのために、みんなは一つの目的(目標)のために」でも、どれも正解なのではないでしょうか。受け止める人間の、その場の状況や立場に応じて、その意味を受け止めればいいのではないでしょうか。それが、まさしく、ラグビーというスポーツの素晴らしさ、懐の深さだと思います。